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前立腺疾患

1 前立腺肥大症
前立腺肥大症の診断


前立腺肥大症は50歳以上の男性の5人に一人にみられます。しかし、その診断は痛みを伴うこともなく、比較的簡単に行われ、恥ずかしいことはありません。診断でまず大切なのは自覚症状を伺う問診です。男性下部尿路症状・前立腺肥大症ガイドラインにそって病歴聴取、症状、QOL評価、身体所見、尿検査、尿流量測定、残尿測定、血液検査(PSA測定も含め)、前立腺超音波検査を行います。自覚症状は「尿の勢いが弱い」、「尿が途切れる」、「腹に力を入れないと出ずらい」、「時間がかかる」、「切れが悪い」などの排尿症状と、「頻尿」、「尿意切迫感」、「尿がもれる」などの蓄尿症状、「残尿感」、「排尿後滴下」などの排尿後症状に分けられます。自覚症状の評価を点数化したのが”国際前立腺症状スコア”です。7点以下が軽症、8点〜19点は中等症、20点以上は重症となります。しかし、症状があっても神経因性膀胱などの他の疾患であることもあります。
その他に「過活動膀胱症状スコア」や「主要下部尿路症状スコア」があり、これも合わせて記入して頂き、自覚症状を総合的に判断していきます。つぎに、医師がお尻から指を入れて前立腺を触る”直腸診”が必要です。
正常の前立腺の大きさはクルミ位の大きさで、直腸診である程度の形状がわかります。
直腸診では前立腺の後面のみを触っているので、全体像をみるのには”超音波検査”が必要です。前立腺全体の形態、重量(正常は約20グラム)までわかり、ときには前立腺がんの所見(低エコー像)がみられることがあります。大切なことは前立腺がんとの鑑別のため”前立腺特異抗原(PSA)”の約2ccの血液検査を行うことです。直腸診や超音波検査で問題がなくてもPSAが高いことから前立腺針生検を行い、がんが発見されることがあリます。
#当クリニックではPSAの結果は午前11:00までに採血すると、翌日の午前8:30にお知らせできます。

なお、円滑な診察を受けるには、来院時に尿検査ができるように排尿できる状態にしておき、症状スコア(IPSSOABSSCLSS)を記入した質問票や、薬の手帳、ご自身の病歴をまとめたものを持参して頂くことをおすすめします。

   
 
上記の症状スコア(IPSSOABSSCLSS)をクリックするとPDFファイルで開きますので、印刷してご使用下さい。

前立腺肥大症の保存的治療

前立腺肥大症は男性の国民病とまでいわれ、最近多くなっている疾患です。「トイレが近い」、「残尿感」、「間に合わず尿をもらす」、「尿が途切れる」、「尿の勢いが弱い」などの症状を中高年の方でしたら、一度は経験しているでしょう。前立腺肥大症は直腸診、超音波検査などで診断されます。そして、その治療方法は自覚症状の程度や前立腺の大きさ、残尿量によりいろいろとあります。各治療法には長所、短所がありますので、医師と十分相談して選択することが大切です。
治療方法には大きく分けて、経過観察と薬物治療の保存的治療、そして手術療法があります。経過観察は症状が軽度の場合で以下の日常生活の注意点を守ると改善することがあります。すなわち、過剰にアルコールやコーヒーを摂取しない、強い香辛料はさける、尿を我慢しないですぐトイレへ行く、体を冷さない、就寝前にゆっくり入浴し身体を温める、長時間座るのをさける、便秘に気をつけることです。
また、抗ヒスタミン剤などのかぜ薬等で膀胱の収縮を弱める作用を持つものがありますので、現在服用されている薬をチェックすることも大切です。そして、どのような疾患にも言えることですが規則正しい食事と睡眠、そして適度な運動をすることが大切です。
薬物療法のうち、アルファー交感神経遮断剤(商品名:ハルナール、フリバス、 ユリーフ)は速効性があり、最も多く使用されています。この薬は膀胱の出口から前立腺部尿道にあるアルファー交感神経受容体を遮断することによって平滑筋の緊張をゆるめ、排尿症状と、蓄尿症状および排尿後症状を改善します。次に1994年に認可されたホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬(商品名:ザルティア)はcGMPの分解を阻害して一酸化窒素(NO)の作用を増強して、前立腺肥大症に伴う下部尿路症状を改善させます。具体的には、➀尿道・前立腺・膀胱頸部の平滑筋を弛緩させて排尿症状を改善、②膀胱からの求心性神経活動を抑制して蓄尿症状を改善、③血管平滑筋の弛緩により、下部尿路組織の血流や酸素供給を増加させます。5α還元酵素阻害薬(商品名:アボルブ)抗アンドロゲン剤(商品名:プロスタール)は数ヶ月で前立腺を縮小させる作用があります。しかし、服用を止めるとまた大きくなり、副作用として勃起障害が出ることがありますので、注意を要します。その他、漢方製剤植物エキス配合製剤は 副作用はほとんどありませんが、効果が表れるには時間がかかります。なお、単独で効果がない場合は他の薬を併用することもあります。

前立腺肥大症の手術療法

手術の適応は、薬物治療で効果がない場合や、尿閉となった場合、残尿がかなり多く認められる場合、残尿のため膀胱炎をくり返す場合、膀胱結石がある場合、前立腺肥大症のため腎臓の機能が低下している時です。
手術として最も一般的に行われているのが、尿道から内視鏡を入れて電気メスで前立腺を切除する「経尿道的前立腺切除術:TUR-P」です。この手術で、尿道を圧迫している肥大した前立腺が切除されるので、劇的に尿の出が良くなります。泌尿器科医の間で前立腺肥大症の治療法の”Gold Standard”として高く評価されています。治療効果はありますが、残念ながら手術を受けた方全員が蓄尿症状について良くなるわけではありません。合併症として出血や穿孔、尿失禁、尿道狭窄、精液が膀胱へ逆流する逆行性射精、勃起障害が出ることがありますので、良く理解された上で手術を選ぶべきでしょう。注意として、心筋梗塞や脳梗塞で抗血栓剤を服用されている方は、手術の時に出血量が多くなるので、数日前から薬を止める必要があります。なお、切除した前立腺を病理組織学的に診断できますので、たまたま前立腺がんが見つかることがあります。
ホルミウムレーザー前立腺核出術:HoLEP」は内視鏡を通して、ホルミウムレーザーを用いて前立腺腺腫と外科的被膜との間を剥離して腺腫を核出する方法です。この手術はTUR-Pに比べて出血などの合併症が少なく、患者さんの負担が低いのが特徴です。この手術には術者の熟練が要します。当クリニックでは私の先輩の坂泌尿器科病院の坂 丈敏先生に紹介しており、全員の方が改善しております。
#坂泌尿器科病院(札幌市西区八軒2条4丁目1-1) http://www.saka-uro.or.jp/
レーザー光選択的前立腺蒸散術:PVP」は内視鏡を用いて、尿道から細い光ファイバーを通して行う手術方式です。光ファイバーから高出力レーザーを前立腺組織に照射して、蒸散させることで尿路の閉塞を取り除く方法です。特徴はTUR-Pに比べて出血量が少なく、抗血栓剤を休薬しなくても手術が出き、低侵襲のため90歳を超える高齢者に対しても手術が可能で、入院期間は4〜5日間で済むことです。札幌医大泌尿器科では、Green Lightレーザー療法(PVP)の新しい機材XPSシステムを2021年3月から導入しており、高い成果を生んでいます。なお、手術後のフォローは札幌医大泌尿器科とコラボして1ヶ月後、3ヶ月後、12ヶ月後まで行っています。
#札幌医科大学附属病院泌尿器科(札幌市中央区南1条西16丁目)https://web.sapmed.ac.jp/uro/

2 前立腺炎
前立腺炎の特徴

前立腺の疾患のなかで、前立腺肥大症や前立腺がんとともに最近注目されているのが前立腺炎です。
男性の約半数は、生涯に一度は前立腺炎になると言われています。アメリカでは前立腺炎の患者数は前立腺肥大症や前立腺がんより多く、また、その症状も頻尿や残尿感、会陰部痛などが出るので、”生活の質”に多大な影響を与えます。そこで、前立腺炎を体系化するためアメリカのNIHから1995年に新しい病型分類が提唱され、症状の問診表も発表されました。


【診 断】
前立腺炎は、前立腺に生じた炎症のことをいい、様々な症状が出る疾患です。細菌が尿道から入り感染する細菌性と、冷えやストレス、アレルギーなどが影響する非細菌性のものがあります。NIHの病型分類には以下に分けられます。
 
急性細菌性前立腺炎
慢性細菌性前立腺炎

慢性非細菌性前立腺炎(Ⅲa 炎症性 Ⅲb 非炎症性)

無症候性炎症性前立腺炎

 
好発年齢は、50歳以上にみられる前立腺肥大症に比べて20歳から40歳代と、比較的若い男性に起こるのが特徴です。前立腺炎の症状は、「頻尿」、「残尿感」、「尿が出にくい」、「尿の切れが悪い」、「下腹部やソ径部、会陰部の不快感や痛み」、さらに精液に血が混じる「血精液症」もみられることもあり、多種多様であります。急性細菌性前立腺炎の場合は高熱や全身倦怠感がみられ、入院が必要なこともあります。前立腺炎の診断は、医師が症状をチェックし、肛門から指を入れて前立腺を触る”直腸診”を行います。そして、前立腺をマッサージして、前立腺分泌液を得て、顕微鏡にて白血球がでているか調べます。当クリニックでは症状のチェックにおいて、問診の他に、NIH -CPSI(慢性前立腺炎問診票)を記入していただいています。

上記のNIH -CPSI(慢性前立腺炎問診票)をクリックするとPDFファイルで開きますので、印刷してご使用下さい。

【治 療】
治療は、ニューキノロン系の抗菌薬を中心に、消炎剤、植物製剤、漢方薬の投薬が行われます。急性細菌性前立腺は抗菌薬にて約1週間で治癒します。しかし、慢性前立腺炎の場合には1週間単位では治らず、長期間の治療が必要で、再発することがあります。

【予 防】
生活習慣やストレスが慢性前立腺炎の原因となったり、症状を悪化させることがあります。日常生活の注意点として、アルコールを避ける、車の運転などの長時間の座位を避ける、仕事などの身体的・精神的ストレスを避ける、体を冷やさないことなどです。そして、どのような疾患にも言えることですが、規則正しい生活、適度な運動をすることをお勧め致します。

3 前立腺がん

急増している前立腺がん

前立腺がんはアメリカで最も多いがんで、男性のがんの発生率で第一位、死亡率では肺がんに次いで第二位を占めています。日本でも年々増加しており、その増加率は全てのがんの中で最も高いです。
前立腺がんの発生には、老化による性ホルモンのバランスのくずれや、欧米化した食生活をはじめとする環境因子が大きな要因となっています。また、遺伝的要因もあり、1親等以内の父親や兄弟に前立腺がんになった人がいると、発症リスクは5.6倍にもなり、50歳以前の若い年齢に前立腺がんになるリスクが高まるとの報告があります。
発生する年齢は60歳代から増えはじめ、最も多いのが70歳前後で、中高年を襲う特徴的ながんです。そのため、泌尿器科やがん関係の学会では前立腺がんが常にトピックスになっています。
前立腺がんの初期には、ほとんど自覚症状がありません。症状を訴えて病院を受診して、がんが見つかったときには、すでに進行がんであることが少なくありません。がんが進行して尿道を圧迫し始めると、排尿困難や頻尿、残尿感などの症状が出ることがあります。この症状は、前立腺肥大症とよく似ています。
前立腺肥大症の発生部位は主に尿道をとりかこむ移行領域からできるため、肥大してくると尿道を圧迫して排尿困難などの症状が出やすい傾向にあります。一方、前立腺がんは前立腺の外側の辺縁領域から発生するので症状が現れにくいのです。発生部位からもわかるように前立腺肥大症と前立腺がんが合併することはありますが、前立腺肥大症が「がん化」することはありません。
前立腺がんは骨に転移しやすい性質がありますので、腰が痛く整形外科を受診された方が、前立腺がんの骨への転移と診断されることもあります。また、前立腺がんは、他のがんに比べて進行が非常に遅く、発がんしてから臨床がんになるまで数10年かかると推定されています。すなわち、青壮年期にがん細胞が発生し、20〜30年経って微小がんとなり、その後、数年以上経って臨床がんに成長するといわれています。
幸い治療方法は病期分類と悪性度により確立されています。それでも早期発見、早期治療が重要なのは言うまでもありません。

前立腺がんの診断

急増している前立腺がんの診断は案外、簡単に、そして短時間でできます。診断方法には、①PSAの血液検査、②直腸診、③超音波検査の三つがあります。
①腫瘍マーカーとは、がんがあると血液や尿に放出される特殊な酵素のことです。前立腺がんの腫瘍マーカーとして、PSA(Prostate Specific Antigen:前立腺特異抗原)が用いられています。がんが小さいときには直腸診や超音波検査で発見するのが難しいので、PSAの血液検査が有効です。
当クリニックでは、約2ccの血液を採取しましたら、結果は翌日8:30AMに判明します。PSAの値が高ければ前立腺がんが疑われますが、前立腺肥大症や前立腺炎でも高くなることがありますので、鑑別診断が必要です。前立腺がんの初期の段階では自覚症状はありませんので、50歳以上の男性の方は一度、PSAの血液検査を受けることをお勧め致します。
直腸診は医師が肛門に指を入れて直腸壁からの前立腺の大きさや硬さ、圧痛などを調べる検査です。前立腺がんの場合には石の様に硬く、表面が不整などの所見があります。一般に前立腺がんと診断される15〜40%に直腸診で、異常所見があります。
超音波検査は、前立腺の断面を超音波の反響を読み取って画面に映し出す検査です。前立腺がんでは、前立腺の形状が不整になり、内部が黒く見えたり、前立腺の各領域の境界がはっきり映し出されず、ボヤけた感じに見えます。超音波検査はがんが小さい場合には発見できませんが、直腸診ではわからない腹膜側の病変を見つけることができます。

 
以上の三つの検査で明らかに前立腺がんの疑いがあれば、前立腺針生検を行って、確定診断します。前立腺生検とは、前立腺の組織を採取して、顕微鏡でがん細胞の有無やがんの悪性度などを調べる検査です。直腸から針を入れて前立腺組織を採取する方法と、会陰から採る方法があります。
 
当クリニックでは、今まで外来にて2000例以上の軽直腸的前立腺針生検を実施しました。
 
なお、当クリニックでは明らかに前立腺がんを疑う以外は、侵襲のある前立腺針生検をすぐ行わず、2015年から前立腺がんの鑑別診断として大変有用な「骨盤部造影MRI」を勧めています。当クリニックから歩いて3分ほどにある、セントラルCIクリニックの院長:玉川光春先生(岩澤と大学の時の同級生)を紹介しています。セントラルCIクリニックでは3.0テスラの精密なMRIを完備しており、読影する放射線科医の玉川光春先生の診断レベルは最高で、信頼できます。MRIの結果は1週間以内に当クリニックに送られ、岩澤が画像を見ながら説明します。
 
# セントラルCIクリニック
札幌市中央区大通西17丁目1-27 札幌メディケアセンタービル1F http://www.teishinkai.jp/ccic/ 

 
前立腺がんと確定診断されたら、がんの病期(ステージ)を確認するため、CT検査と骨転移の有無をみるため「全身MRI」で調べます。以前「骨シンチグラフィー」を撮影していましたが、感度が低くコストが高いため、現在ではセントラルCIクリニックで「全身MRI」を撮影しています。以上を踏まえて、臨床診断をして、次に治療に入っていきます。

前立腺がんの最近の治療

治療にあたっては、がんの病期分類、がん細胞の悪性度、年齢や全身状態、QOL(生活の質)などを考えあわせて、患者さんと充分に話し合って方針を決めていきます。一番大切なことは患者さんが各治療の内容を把握して、 十分納得した上で治療を受けられることです。

  • 監視療法
    治療をせず、経過を観察する方法です。適応は、PSAが10ng/ml以下で、臨床病期pT2以下、悪性度が低く(Gleason score 6以下)、がんが生検で2本以下の陽性コア数の症例です。すなわち、すぐに治療を行わなくても余命に影響がないと判断される場合に行われます。約3ヶ月毎にPSA検査を行い、1〜3年毎に前立腺針生検を行います。主治医と密にコミュニケーションをとりながら治療方針を確認することが大切です。
  • 手術療法
    早期がんでは前立腺を全部摘出する「前立腺全摘術」が有効です。方法は前立腺とともに前立腺部の尿道、精のうを摘出し、膀胱と尿道を寄せて縫い合わせます。中間〜高リスク症例では、リンパ節郭清を同時に行います。しかし、患者さんの身体的負担が大きいため、75歳ぐらいまでの方を対象としています。以前は開腹術、その後腹腔鏡下手術、2012年より保険適用された「ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術」が主流となってきました。出血量が少なく、術後の回復がかなり早くなりました。なお、尿道括約筋を傷めることがあるため術後の尿失禁や、神経を損傷して勃起障害の後遺症が出ることもあります。札幌市内では、15医療機関で行っており、当クリニックでは、患者さんのニーズに合わせて医療機関をご紹介しています。
    なお、病院名は以下のとおりです。
  • NTT東日本札幌病院
  • 恵佑会札幌病院
  • 札幌医科大学附属病院
  • 札幌孝仁会記念病院
  • 札幌厚生病院
  • 札幌禎心会病院
  • 札幌北楡病院
  • 三樹会泌尿器科病院
  • 市立札幌病院
  • 手稲渓仁会病院
  • 時計台記念病院
  • 斗南病院
  • 北海道医療センター
  • 北海道がんセンター
  • 北海道大学病院
    (五十音順)
  1. 放射線療法
    放射線を前立腺に照射することで、がんを死滅させる治療法です。侵襲が少ないので高齢の方にも適応になります。しかし、放射線により正常な細胞まで障害され、血尿や頻尿、直腸出血、尿失禁、勃起障害などの後遺症が出ることがありますが、治療が終われば徐々に回復します。
    ①IMRT(強度変調放射線治療):3D-CRTを進化させ、複数の放射線ビームを組み合わせて、がん細胞に集中的に照射する方法です。周辺の正常組織にかかわる線量を最小限に抑えることができます。治療は週に5日間(月曜日から金曜部)を約7週間行います。
    ②密封小線源永久挿入治療(ブラキセラピー):放射線を出すヨウ素125を入れたカプセルを腰椎麻酔下で、会陰から針を刺して前立腺に埋め込み方法です。札幌医大放射線科では、入院期間は5日間で行っています。当クリニックから、札幌医大放射線科の坂田耕一教授と連携をとって、多数の患者さんを紹介しています。その後のfollow-upも両者で行っています。
    ③陽子線治療:水素イオンをサイクロンなどの巨大な機械で加速して、病変に直接照射する方法です。2018年より保険適応されております。当クリニックでは、札幌禎心会病院の高木克先生を紹介しています。高木克先生は元札幌医科大学附属病院放射線科医で、岩澤の後輩にあたる信頼できる先生です。


    # 札幌禎心会病院
    札幌市東区北33条東1丁目3番1号 http://www.teishinkai.jp


  2. ホルモン療法(内分泌療法)
    前立腺がんは男性ホルモンに依存しているため、その作用を妨げることで、がん細胞の分化と増殖を抑える治療法です。ホルモン療法として男性ホルモンを分泌している精巣を摘除する精巣摘出手術、男性ホルモンの分泌を抑えるLH-RHアゴニスト(商品名:リュープリン・ゾラデックス)やLH-RH アンタゴニスト(商品名:ゴナックス)を月に一度の注射する方法があります。その他、多数の抗アンドロゲン薬(商品名:オダイン、カソデックス、イクスタンジ、ザイティカ、アーリーダ、ニュベクオ)があり、適切な薬剤を使用すると、効果がありますので、主治医と良くご相談してください。
  3. 化学療法
    抗がん剤(ドセタキセル、カバジタキセル)による治療法で、進行がんやホルモン療法で効果がない方に行います。ここ数年で化学療法の開発とその効果は飛躍的に進歩しており、延命効果が期待されています。しかし、治療期間は長くかかり、いろいろな副作用が出現することがありますので、十分にご理解の上で治療を受けて下さい。

性感染症(STI)

男子尿道炎とは・・性感染症のひとつです

男子尿道炎はセックスなどで病原微生物が尿道に入り引き起こされる性感染症です。 病原微生物としてはクラミジアと淋菌が多く、これらは性器以外の口腔や直腸などにも感染します。 クラミジアは、精巣上体炎(副睾丸炎)や時に前立腺炎の原因になることもあります。
病原微生物 
クラミジア・トリコマティス、淋菌、マイコプラズマなど

クラミジア感染症とは?

クラミジアはウイルスによく似た性質を持つ非常に小さな細菌で、人の細胞に入り込み、形を変えながら増殖して感染症を引き起こします。
クラミジアに感染して起こる病気には、トラコーマ(結膜炎)やオウム病(クラミジア肺炎)、尿道炎や子宮頸管炎などがあります。これらのうち尿道炎、子宮頸管炎は、性行為によって感染する性感染症で、現在日本で淋菌感染症を抜いて最も多い性感染症となっています。症状は非常に軽く、男性は少量の分泌物や排尿時の不快感などです。
また女性の場合は少量のおりものがある程度なので、気がつかない人がほとんどです。そのため感染しているのにもかかわらずそのまま過ごし、パートナーに移してしまい、一般社会に広がってしまいます。感染したままで放っておくと感染が腹部などに広がって腹膜炎を起こしたり、不妊の原因ともなる卵管炎をひきおこすことがあります。

感染経路は?

セックスなどにより尿道から病原微生物(クラミジア、淋菌など)が入り感染を引き起こします。 
最近では、オーラルセックスによる咽頭炎、アナルセックスによる肛門直腸炎も問題となっています。

症状(男子尿道炎)・・こんな症状はありませんか?

次の症状を見逃さないことが大切です。
<クラミジアによる尿道炎>

  • 尿道に違和感がある。(痛みはないことが多い)
  • 透明な分泌物が出ることがある。(ただし、約半数の人では症状がない。 感染から症状が出るまでの潜伏期間は1~3週間である。)

<淋菌による尿道炎>

  • 排尿時に尿道に焼けるような感じや痛みがある。
  • 膿状(うみ)のような分泌物が出ることがある。(感染から症状が出るまでの潜伏期間は3~7日である。)

検査と治療(男子尿道炎)・・検査も治療も簡単です。

  • 検査・・痛みは伴いません。 尿の検査を行います。
  • 治療・・抗菌薬の服用により治ります。
    クラミジアは抗生剤で治ります。
    推奨レベルA
    商品名①ジスロマック 1回 1000mg 1日1回のみ
             ②クラリス・クラリシッド 1回 200mg 1日2回 7日分
             ③クラビット 1回 500mg 1日1回 7日分
    淋菌は注射剤で治ります。
    第一選択 商品名①ロセフィン静注 1回1g 1日1回のみ
    第二選択 商品名②トロビシン筋注 1回2g 1日1回のみ

    大切なことはパートナーの方の治療も一緒に行うことです。

かかる費用は?

尿道炎は、初診料288点、検査料・その他で約590点、合計は約878点です。
3割負担で、約2,700円になります。
院外薬局での料金は、推奨レベルAの商品名①ジスロマックの薬剤処方の場合で合計約256点です。
3割負担で、約770円(薬局により異なります)になります。

合わせて合計、約3,500円です。 

ご存じですか?

クラミジア感染症の治療にはクラミジアを殺したり、増殖を抑えたりする薬を使います。
クラミジアは ヒトの細胞に寄生して形を変えて増えますので、それに応じて治療するために、医師の指示に従って抗生剤の服用が必要となります。さらにパートナー同士で感染を繰り返すピンポン感染を防ぐために、必ずパートナーの検査・治療も必要です。
またクラミジアが消失せずに残っていて再発する可能性がありますので、治療終了後医師の指示に従って再度受診し、完治の確認をすることも大切です。
淋菌に感染している人の3~5人に1人はクラミジアにも感染しているという報告がありますので、もしも淋菌感染症と診断を受けた場合はクラミジアの感染の有無もあわせて、検査結果を確認しましょう。 

注意点

  • 治療中のセックスは避けてください。
  • 症状が軽くなったり、無くなったからといって服薬を中止したり、受診を途中でやめないでください。
  • 異常を感じたら男性が積極的に診察を受け、パートナーとともに治療しましょう。 
  • 感染の予防にはコンドームを使いましょう。

 

クラミジア感染症は適切な処置で治る病気です。
もしも感染してしまったらパートナーとよく話し合って一緒に治療することが大切です。

 

勃起不全(ED)

EDとは

ED(Erectile Dysfunction:勃起障害/勃起不全)とは、満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、または維持できない状態が持続、または再発することです。
EDの患者さんは、日本では約900万人以上、米国では約3,000万人以上と推計されています。

勃起のメカニズム

陰茎の中には、たくさんの神経と血管が集まっています。
性的刺激により興奮すると、海綿体に血液が流入・充満し、勃起します。
<海綿体へ血液が流入する仕組み>
陰茎へ血液を供給している動脈は4本ありますが、このうち勃起に最も重要な役割を果たすのは陰茎深動脈です。男の人が性的に興奮したときには、勃起をつかさどる神経は血液流入のバルブ(ラセン動脈と言われる)をゆるめ、同時に海綿体そのものもゆるむことで、血液が陰茎深動脈から海綿体にたくさん流れ込むように指示を出します。
<海綿体の仕組み>
陰茎には左右一対となった海綿体があり、これらはそれぞれ白く分厚い強靱な膜である白膜に包まれています。血液が海綿体に流入・充満することにより勃起が引き起こされます。勃起した時は、白膜の中で海綿体が血液に充満によりパンパンにふくれあがり、白膜から外に出て行く静脈は締め付けられ、海綿体から流出する血液量は非常に少なくなります。この状態が保たれることにより、完全勃起の状態になります。勃起の程度は、海綿体に入る血液の量と圧力によって決まります。

EDの原因

EDの分類は、その原因により大きく3つにわかれます。
医師に相談して原因について知ることが治療の早道です。
<機能性勃起不全>

  • 心因性勃起不全(緊張やセックスの失敗に対する恐れなど)
  • 精神病性勃起不全
  • その他

<器質性勃起不全>

  • 陰茎性勃起不全(陰茎に問題がある場合)
  • 神経性勃起不全(脳から陰茎までの神経に問題がある場合)
  • 血管性勃起不全(陰茎の血管に問題がある場合)
  • 内分泌性勃起不全(ホルモンに問題がある場合)
  • その他

<混合性勃起不全>

  • 機能性勃起不全と器質性勃起不全の原因が混在するもので、ほとんどの症例で病因が混在していることが多いです。
    (原因となる疾患には、糖尿病、心臓病、腎不全などがあります。また、外傷、骨盤内手術やその他外科手術なども原因となることがあります。)

EDのリスクファクター

EDの診療ガイドラインによると、EDのリスクファクターとして12の因子を取り上げています。
1.加齢
2.糖尿病
3.肥満と運動不足
4.心血管疾患および高血圧
5.喫煙
6.テストステロン低下
7.慢性腎臓病と下部尿路症状
8.神経疾患
9.外傷および手術
10.心理的および精神疾患的要素
11.薬剤
12.睡眠時無呼吸症候群

EDの治療

EDの第一選択の治療法は、ホスホジエステラーゼ5(phosphodiesterase5:PDE5)阻害薬です。
本邦では2剤が使用可能であります。

①シルデナフィル(商品名:バイアグラ)
②タダラフィル(商品名:シアリス)
③バルデナフィル(商品名:レビトラ)※2021年10月より製造中止

 
「PDE5阻害薬を服薬される皆様へ」をクリックするとPDFファイルで開きます。
「シアリスを服用する患者様へ」をクリックするとPDFファイルで開きます。

<PDE5阻害薬>
性的刺激により興奮すると、勃起をつかさどる神経から一酸化窒素(NO)と呼ばれる伝達物質が放出されます。これが、陰茎の勃起に非常に重要な役割を果たしています。
NOは、生体内に広く分布する血管拡張因子であり、サイクリックGMP(cGMP)という物質を介して血管を拡張させる働きがあります。したがって、陰茎海綿体内では、NOが生産されると陰茎海綿体平滑筋を弛緩して海綿体内への血液の流入量を増大させて陰茎を膨張させます。性的刺激とNOの放出に始まる、この一連の働きにより陰茎が勃起します。
また、陰茎海綿体内には、cGMPを分解してしまうホスホジエステラーゼタイプ5(PDE5)という酵素が存在します。このPDE5はcGMPを分解して、活性がないGMPにします。
PDE5阻害薬は、この陰茎海綿体内のPDF5を選択的に阻害することで、cGMPの濃度を上昇させて陰茎海綿体平滑筋の弛緩反応を増強し、陰茎の勃起を促させる薬剤です。 クエン酸シルデナフィルは特に狭心症などに使われるニトログリセリン(内服、舌下錠、バップ剤)を使用している場合には、服用できません。

<漢方薬>
日本で古くから効果があると言われてきた「漢方薬」について説明します。勃起障害は漢方でいう「陰萎」(いんい)という状態にあてはまると考えられており、加齢などにより身体の働きが弱ったり、心を使いすぎて疲れがたまったりする事により「陰萎」になってしまうとされています。それを補っていこうというのが漢方の基本的な考え方です。
漢方では、患者さんの「証」(しょう)に合わせて、最も適した薬が使われます。「証」とは患者さんの「体質・症状」をあらわす言葉で、同じ病気でも違った薬が処方されることがあります。
勃起不全の患者さんに使われる漢方薬をまとめますと、以下の表のようになります。 

体質 EDの他に随伴する症状 使用する漢方薬
体格は肥満しあるいは筋骨たくましくて精力旺盛 のようにみえるが、EDで悩んでいるもの 大柴胡湯
(だいさいことう)


神経過敏で不眠、動悸、くよくよなどするもの 柴胡加竜骨牡蛎湯
(さいこかりゅうこつぼれいとう)
 老人で下半身の脱力倦怠感のあるもの  八味地黄丸
(はちみじおうがん)
体力が弱く、疲れやすく、神経過敏のもの 補中益気湯
(ほちゅうえつきとう)
または
桂枝加竜骨牡蛎湯
(けいしかりゅうこつぼれいとう)

日本医師会雑誌より抜粋(一部改変)
現在、漢方薬は医療用漢方製剤として様々な医療機関でも用いられております。
漢方薬は複数の生薬を組み合わせて一つの処方として用いられており、「証」にあった漢方薬を服用することで効果が一層高まると考えられています。
また、漢方薬にも副作用があるので、医師の指示どおりに服用することが大切です。
<陰圧式陰茎勃起補助具(EVD)>
陰圧式陰茎勃起補助具(EVD)は、陰茎を陰圧にすることで陰茎海綿体内に血液を流入させ、勃起後は、陰茎の根元をリングで締め付けることにより、陰茎の勃起状態を維持するというものです。この用具は、ゲッティング・オズボーン氏が、自分の勃起不全を治療するために開発した用具が起源となっています。安全性が高く効果的であることから、 AUA(米国泌尿器科学会)が「器質性勃起不全の治療ガイドライン」の中で勧告している治療方法の一つにまでなっています。しかし、日本ではあまり使用されていません。
<陰茎海綿体内注射>
陰茎海綿体を広げて勃起させる薬剤(塩酸パパベリン、PGE1、フェントラミンなど)を陰茎に注射します。特にPGE1は比較的副作用が少ないこともあり、多く使用されています。米国では、「クエン酸シルデナフィル」の登場までは第一選択の治療方法でした。
この治療方法は効果も高く、確実に勃起することが特徴ですが、セックスの直前に注射しなければならないことが欠点です。日本では自己注射が認められていないことから、ほとんど行われていないのが現状です。
<陰茎プロステーシス>
陰茎プロステーシスは、陰茎海綿体内に棒(プロステーシス)をさしこみ、性交を可能にさせる方法です。手術を行う患者さんは、「パートナーのための手術である」ということを 充分に理解されているようです。ただし、この治療方法は、プロステーシス挿入後は確実に性交が可能となりますが、海綿体を破壊することや陰茎が冷たい等、違和感を訴える患者さんもいます。
 

以前はあきらめていた勃起不全も、現代医学の進歩により、様々な治療方法が開発されており、決してあきらめる必要のない病気となりました。ひとりで悩んでばかりいないで、まずは専門医の先生に相談してみて下さい。あなたに合った治療方法が見つかるはずです。

 
当クリニックでは症状のチェックにおいて、問診の他に、ED問診表(ED問診表)を記入していただいています。

 

上記のED問診表(ED問診表)をクリックするとPDFファイルで開きますので、印刷してご使用下さい。

膀胱炎

急性単純性膀胱炎 

誘因

20歳〜40歳の女性に多くみられます。細菌(主に大腸菌)が膀胱の中に侵入して増殖して発症します。
誘因は、過度の排尿の我慢、性交、過労、生理、帯下、便秘、濃縮尿(水分摂取不足、過度な発汗)、局所の不潔などです。

症状

排尿痛、頻尿、残尿感、尿混濁(尿が濁る)が主な症状で、その他に下腹部痛、肉眼的血尿などもみられます。発熱を伴いませんが、38度以上の発熱。悪寒、背部痛が出現したときは急性腎盂腎炎を疑います。

治療

細菌感染によって起きる感染のため、抗菌薬を使って治療します。
第一選択(閉経前の女性に対して)
商品名①クラビット  経口1回500mg 1日1回 3日間
   ②シプロキサン 経口1回200mg 1日2〜3回 3日間
   ③オゼックス  経口1回150mg 1日2回 3日間
また、
水分を多めにとり、アルコールや香辛料などの刺激物を避け、ゆっくりと体を休め、下半身を冷やさないなど日常生活に注意することで、通常は数日から1週間程度で治ります。再発や再燃を起こすこともあるので、きちんと治ったか確認することも大事です。当院では1週間前後に再度来院してもらい、尿検査を行い治っているか確認します。

かかる費用は?

急性単純性膀胱炎は、初診料:288点、検査料・その他:約482点、合計:約770点です。3割負担で、約2,400円になります。
 
なお、院外薬局の料金は、第一選択の商品名①クラビットの場合、合計:約268点です。3割負担で、約800円(薬局により異なります)になります。

合わせて、合計、約3,200円です。

再発防止のための注意事項

  • 排尿を我慢しない。
  • 水、お茶、ウーロン茶などでできるだけ水分を多くとる。
  • 外陰部を清潔に保つ。特に生理の時は注意する。
  • 排尿後は前から後ろへ拭くようにする。
  • 衣類、入浴などに気を配り、体、とくに下腹部、骨盤部を冷やさない。
  • 便秘しないように気をつける。
  • 性交後は清潔にし、排尿する。
  • 過労は避ける

慢性複雑性膀胱炎

誘因

尿路のなんらかの病気(前立腺肥大症、尿路結石、尿路狭窄、神経因性膀胱、膀胱腫瘍など)が原因で発症します。膀胱留置カテーテルを挿入していることでも発症しやすくなります。男女の区別なく起こり、尿路の先天性奇形を有する小児でも発症します。

症状

無症状もしくは、急性単純性膀胱炎より症状は軽度です。急性悪化すると、急性単純性膀胱炎と同様の症状を伴います。
大腸菌や緑球菌などが原因菌としてあげられ、複数菌によるものの場合もあります。慢性の経過をたどりやすく、感染が持続したり、治療しても再燃を繰り返すことがあります。

治療

無症状である場合には治療は必要ありません。症状がある場合には抗菌薬を投与しますが、根治には基礎疾患の治療が必要です。

間質性膀胱炎

誘因

原因はいまだ不明で治りにくい膀胱炎で、感染を伴わないものです。中高年の女性に多くなりますが、男性や若い人でも発症します。

症状

昼夜を問わない頻尿、尿意切迫感、膀胱充満時の下腹部疼痛が症状として起こります。排尿すると下腹部痛は和らぎます。膀胱鏡でみると広範囲な点状出血や潰瘍がみられ、進行すると膀胱壁は繊維化、萎縮しています。

治療

膀胱鏡下で水圧拡張することが効果的といわれています。内服治療では、抗ヒスタミン薬、抗うつ薬、抗コリン薬、鎮痛薬が使用されます。個人差はありますが、コーヒー、紅茶、アルコール、たばこなどの刺激物は症状を悪化させることもあります。
 
 

過活動膀胱

過活動膀胱は膀胱が自分の意思に反して収縮する病気で、尿意切迫感(突然強い尿意が起こり、我慢が難しくなる症状)を必須の症状として、通常は頻尿を伴います。この診断は患者さんの症状で決まりますので、痛い検査などは必要ありません。しかし、尿の検査で、膀胱炎などの尿路感染症や下部尿路の病態を取り除くする必要があります。
診断は簡単で、過活動膀胱質問票(下記の表を参考にして下さい)にてなされ、3〜5点が軽症、6〜11点が中等症、12〜15点が重症と症状の程度が分類されます。40歳以上の男女を対象とした調査によると、12.4%(約810万人)が過活動膀胱で悩んでいることがわかり、国民病のひとつと言っても過言ではありません。

原因

原因は、脳血管障害やパーキンソン病、認知症などの神経の障害で起こることがあります。その他の原因は、加齢や男性の前立腺肥大症、女性に多い骨盤底筋群が弱くなることなどです。

治療

治療は行動療法と薬物治療があります。
行動療法は侵襲がなく、経済的に負担がなく、過活動膀胱の治療の第一選択です。行動療法として、まず「膀胱訓練」をしてみましょう。排尿でトイレに行きたくても、15〜30分我慢して排尿間隔をあけます。訓練を続けると、膀胱容量が大きくなり、我慢できる時間が長くなります。
次に、「骨盤底筋体操」を毎日行うことが大切です。肛門の筋肉を10秒ほど引き締めて、そして緩めて数10秒リラックスする体操です。「締める、緩める」のくり返しを10回で1セットとして、1日5セット行うと、約3ヶ月で治る方もいます。また、ご自身の排尿状態を把握する上で「排尿日誌」を記載して頂きます。トイレに行った時刻とその時出た尿量、水分の摂取量を記録するrecodingが大切です。水分摂取量は体重の2〜2.5%が適量です。例えば体重60kgの方は一日の水分量は1200ml〜1500mlが妥当です。アルコールも含めて大量の水分を摂りすぎている方は、調整すると尿意切迫感や頻尿がおさまります。
薬物治療として、7種類の抗コリン薬と2種類のβ3作動薬があり、上手に服用すると効果があります。しかし、口渇や便秘等の副作用が出現することがありますので、注意を要します。抗コリン薬は、アセチルコリン(膀胱を刺激して収縮させる神経伝達物質)の過剰な働きを抑えることによって、膀胱が緩み尿意切迫感を改善させます。β3作動薬は日本で開発され、過活動膀胱にとても有効な薬剤です。β3作動薬は排尿筋に働き、排尿筋が弛緩することによって膀胱容量が大きくなり、尿意切迫感が改善されます。
薬物治療を3ヶ月以上行っても治らない難治性過活動膀胱に対して、2017年に保険承認された「仙骨神経刺激療法」や2019年に保険承認された「ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法」も行われています。適応のある患者さんには、札幌医大泌尿器科を紹介しています。
過活動膀胱はメタボリック症候群や生活習慣病と密接に関連しています。以下にあげる生活習慣を見直すと過活動膀胱の予防に多いに役立ちます。過活動膀胱診療ガイドラインで推奨グレードAになっているのが「体重減少」すなわち減量です。次に「運動療法」と「禁煙」が大切です。さらに、飲水やカフェイン、アルコール、炭酸飲料水の摂取量を体重あたり2〜2.5%までに「飲水制限」することです。また、慢性的な塩分の過剰摂取は、夜間頻尿と関連することから「減塩」が大切です。


 過活動膀胱は治る病気ですので、気になりましたら早期治療が重要です。トイレの事が気になり、外出したり旅行にも行けない方もいますが、過活動膀胱を治して、生活の幅を広げ、生きがいのある人生を送って頂きたいものです。

尿失禁

なぜ、尿失禁が起こるのでしょうか?


尿は膀胱に貯えられ(蓄尿)、一杯になればその刺激によって排尿されます。
その過程でさまざまな障害(蓄尿障害)が起こることによって、それがうまくできないということになります。蓄尿障害の一つは、膀胱炎です。膀胱に炎症があると、その刺激で頻尿や痛みのほかに尿失禁が生じます。二つめは、膀胱の筋肉が排尿とは関係なく勝手な収縮をする場合です。原因は、排尿を支配している脳の中枢が脳卒中などで障害されていたり、事故で脊髄(せきずい)損傷があったりする場合です。三つめは、尿を膀胱にためているときに、十分にコックが閉まらないことに原因がある場合です。この中に、女性の尿失禁で最も多い腹圧性尿失禁がふくまれます。膀胱炎は、主に大腸菌によって引き起こされます。右図は女性の骨盤内部を簡単に示したものですが、腸に住む大腸菌が膣や膀胱に移行しやすいことが理解していただけると思います。排尿を長時間我慢したり、清潔にしていなかったりすることや、過労や性交渉などが誘因となって膀胱炎になります。炎症が起きると、その刺激で尿が近くなり、痛みがあり、尿も濁ります。残尿感もあり、血液が混じることも尿がもれることもあります。以上のような感染症ではなくて尿が漏れるという場合に、女性の30~45パーセントにみられる腹圧性尿失禁が最も問題になります。図でもわかりますが、膀胱や子宮は骨盤の底にある骨盤底筋群(括約筋も含まれる)で支えられています。これら全体の筋肉が年を取るにつれて衰えてくると、お腹に急に力が加わったときに尿がもれるようになります。せきやくしゃみ、運動などで尿がもれるというのは骨盤の底を支える骨盤底筋群の筋力が低下した結果、括約筋が緩んだり、膀胱の出口の位置がずれるためです。加齢、更年期、分娩、肥満、便秘などが原因と考えられます。

腹圧性尿失禁には、弱っている骨盤底筋群の筋力を高める体操が効果的です


右図はその一部で比較的やりやすいものです。
仰向けや椅子に座ったり、机に両手を支えて立ってもいいのですが、骨盤底部に神経を集中して、余分なところに力を加えないようにします。
ここで肛門の周りの筋肉をゆっくりと強く締め付け、数秒間保持しておいて、次に緩めます。
人前でおならが出そうになった時に肛門を締める感じです。排尿を途中で止めようとするときの筋肉の使い方も同じですので、これらをまずマスターしましょう。
最初は1回3秒から増やして10秒ほど続け、休みます。これを図のようなパターンで1日50~100回ほど繰り返す。欲張らずに続けると3ヶ月ほどで効果が出るはずです。 

切迫性尿失禁とは

トイレに行くまで待てないという状況で、脳疾患などで中枢や脊髄の反射機能に何らかの障害があると考えられる場合に起こります。

尿失禁に対する治療法

尿失禁に対する薬物療法では、膀胱をゆったりさせたり、括約筋を締める薬などが使われています。手術には、尿道や膀胱けい部を引き上げて止めるというものもあります。比較的簡単な手術であり、外来でも可能です。また、括約筋が弱い場合はコラーゲンを尿道の粘膜下に注射します。意を感じたら、すぐにトイレに行き、排尿を我慢しない。